密教的人生学

人を毒する「三つの煩悩」とは何か

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人を毒する「三つの煩悩」とは何か

人間には、誰にも心の迷いがある。

これを仏教では「煩悩(ぼんのう)」という。
百八煩悩というくらいに、人の心はさまざまに迷う。

なかでも、最も人の心を毒す代表的な煩悩が三つある。

「貪欲(どんよく)」「瞋恚(しんに)」「愚痴(ぐち)」、略して「貪(とん)」「瞋(じん)」「痴(ち)」といい、これを三毒とよんでいる。


「貪欲」とは、むさぼりの心であり、自分だけがうまいことをしようとする強欲な心である。

人間の欲には五つある。
食欲、睡眠欲、性欲という本能的欲望のほかに、財欲、名誉欲というものがある。
これが五欲である。

こう書けば、「食べることも、眠ることも、愛することも、みんな欲か」と、びっくりする人もいるだろう。

だが、ここで私が言いたいのは、「過ぎたるは、及ばざるがごとし」という孔子のことばではないが、「何ごともほどほどにせよ」ということだ。
食べ過ぎ、眠り過ぎ、愛し過ぎは早死のもとである。

つぎの財欲も、同じことである。
だいたい、うまくいっていない人間ほど、目先の利益を追っかけている。
こういう人は、相手の利益など考えない私利私欲だけの人である。

「適正価格」で商売して、「適正利潤」で経営している会社は、必ずうまくいっている。
ぼろ儲けは、見の破滅を招くもとである。

「知足者富(たるをしるものはとむ)」という老子のことばがある。
「欲をかくのは、ほどほどにしろよ。そうすれば心は豊かになり、ふところも豊かになるよ」というのである。

こういう心がけでいると、私利私欲はいつの間にか、「公利公欲」つまり、社会のための利益を考えるということになる。
これを「大欲(たいよく)」という。

ここまでくると、仏道の目的である「煩悩かえって菩提(ぼだい)(仏さまの心)となる」という境地にまで到達できるのである。

名誉欲も財欲も同じである。
自分の脳力以上のものを望んでも、ついには勲章の重みで潰されてしまうのがオチである。
はやく、世の中のためにつくす「大欲」に変えてもらいたいものだ。


さて、つぎに「瞋恚(しんに)」とは、いかりの心である。
「よく怒る人は、欲が深い」という。
たしかに、欲の深い人はわがままで怒りやすい。
このように、貪と瞋は親戚である。

「怒り」というのは、瞬間湯沸器のようにすぐカッとなることをいう。
何かが心のカンにさわると、たちまち怒り出すのである。

ところが、「瞋恚」の瞋(いか)りは、目を三角にして瞋ることであり、恚(いか)りは、恨みに恨んで恚ることである。
したがって「瞋恚」は、ねちねちと嫉妬心から瞋ることが多いのである。

「生きかわり、死にかわり、たとえ地獄の果てまでも、この恨み晴らさずにおくものか」というやつで、これが、いちばんおそろしい。

それにしても、人がみんな自分の思いどおりに動くわけがない。
それに腹を立てて、すぐ喧嘩をするのは、この上もなく愚かなことである。


おしまいは、「愚痴(ぐち)」である。
自分の望みがかなえられない、となると、愚かな喧嘩をはじめる。
それに負けると、こんどは愚痴をいう。

だいたい、貪欲や愚痴の心で世の中を生きているから、他の人が困ることが分からないのである。
それでいて愚痴をいうから、救われない。

「痴」は、疒(やまいだれ)に知と書く。
つまり、知恵が病気なのである。
ついでに述べるが、愚痴は、梵語(ぼんご)で「モーハ」という。
それが、なまって馬鹿になったのだそうだ。

とはいっても、「知恵が病気にかかって、馬鹿なことをいう愚かな人」になってはいけない。
特に、人の上に立つ者は、グチグチと文句をいってはならない。

むかしの日本には、問答無用ということばがあった。
英語でも、「ノー・エクスキューズ(いいわけするな)」というではないか。

社内でも、何を命じられても文句をいわずに、ハイハイと気持よく仕事をする社員がいるだろう。
こういう社員は、きっと出世するにちがいない。


釈迦は、
「貪欲の心が永久になくなり、瞋恚の心も永久になくなり、愚痴の心も永久になくなり、百八つの煩悩のすべてが永久になくなってしまったら、そこは涅槃(ねはん)という悟りの世界である」
といっている。

しかし、これは理想であって、人間は誰でも貪瞋痴という三毒の心を持っている。

蛇と牛が、同じ水を飲んでも、蛇はその水を毒にして出すが、牛はその水を乳にして出す、というたとえがある。

人間も、貪欲の心を世の中のための公欲に変え、瞋恚の心をお不動さまのような社会正義のための瞋りの心に変える。
そして、愚痴を正しい知恵に変えたならば、三毒変じて三薬となるのである。



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