正しいとは、どんなことなのか?
それは、間違っていないことである、とは誰でも分かる。
ただ、間違っていなければ良いということではない。
道理にかなっていることを正しいというのである。
人生の四苦八苦は、欲の心から生まれる。
この欲は我欲といって、自分の願いだけがかなえば良い、というわがままな心のことである。
この我欲から脱却するには、八つの道がある、と釈迦は説いている。
一つは「正見(しょうけん)」といって、正しく物事をみることである。
二つは「正思惟(しょうしい)」といって、正しい考え方をすることである。
三つは「正語(しょうご)」といって、正しいことばを使うことである。
四つは「正業(しょうごう)」(正行《しょうぎょうともいう》)といって、正しい行いをすることである。
五つは「正命(しょうみょう)」といって、正しい生活をすることである。
六つは「正精進(しょうしょうじん)」といって、正しく努め励むことである。
七つは「正念(しょうねん)」といって、正しく物事を記憶して、正しい信念を持つことである。
八つは「正定(しょうじょう)」といって、正しく、おちついた心を持つことである。
これらが「八正道(はっしょうどう)」といって、八つの正しい道を行く方法である。
そして、これを実行することが、欲を離れて心豊かに幸せな生活(悟りの世界)を送る道なのである。
この世の中は、何が正しくて、何が間違いなのかを見きわめることが難しい。
しかし、毎日の生活で起こるできごとの中から、何が正しいか、何が道理にかなっているかをよく観察する。
そうして、おちついてよく見きわめながら、一つ一つ実行していけば良い。
そうすれば、いつの間にか、「正しい八つの道」を自然に歩んでいることに気がつくであろう。
ビジネスマンは特に、
「正業、正命、正精進という自分の行動をよく戒めること」、
「正念、正定という瞑想により、心をおちつけること」、
「正見、正思惟、正語という正しい知恵を出すこと」
が大切である。
昔、中国に道林禅師という高僧がいた。
白楽天という有名な学者が、あるとき禅師を訪ねて、「仏教の真髄とは何でしょうか」とたずねた。
禅師は、「間違ったことをせず、正しいことをせよ」と答えた。
白楽天は、「そんなことは三歳の子どもでも知っている」といって憤然として帰った。
しかしその後、
それは三歳の子どもでも知っていることだが、六十歳になってもできないことなのだ、と悟ったという。
これで、いかに日常の行ないが大切かが分かるだろう。
密教的人生学