「ええい、ままよ、あしたはあしたの風が吹くさ」とやけっぱちでいう人がいる。
では、明日はどんな風が吹くかと聞いてもわからないからなさけない。
「上州名物かずかずあれど、かかあ天下に空(から)っ風」というように、突風や北風は人の身も心も寒くする。
だが、南風やそよ風と聞くと、心がほのぼのとしてくる。
そんなにも、風は人の心を動揺させるのである。
仏教では揺れ動く人の心を、特に「欲望」という煩悩の心を、「八風(はっぷう)」といって、八種類の風にたとえている。
その一は「利(り)」という風である。
世の中で、やることなすことすべてうまく行くときがある。
息子は国立大学へ一度で合格し、娘は有名高校に入り、妻も祖父母も健康だし、自分の経営する会社は笑いが止まらないほど儲かっている。
覚えがある方もいらっしゃるだろう。
このときは、利益(りえき)という風が吹きまくっているのである。
そのニは「衰(すい)」という風である。
このときは、誰もがしゅんとなるときだ。
どんなに頑張っても、なにをやってもうまく行かない。
会社の売り上げは悪いし、おまけに息子が怪我をする、おばあちゃんは入院する。
これも思いあたる人がいるだろう。
このときは衰の風が吹いているから仕方がない。
その三は「毀(き)」という風である。
他人から、かげで非難・攻撃されるときである。
どうしようもないから、こういうときは放っておくしかてがない。
その四は「誉(よ)」という風である。
ほまれあること、かげでほめてくれることだから、ありがたく喜んでいればよろしい。
その五は「称(しょう)」という風である。
これは、目の前でほめられることだから、お世辞が入っているかもしれない。
気をつけるべし。
その六は「譏(き)」という風である。
譏は、そしることである。
それも、面と向かってそしってくれる。
聞けば腹は立つがよく考えると心底からいってくれているので、とてもありがたい人である。
その七は「苦」という風である。
すなわち逆境のことである。
こんなときは、決して悲観してはならない。
希望を持つことである。
その八は「楽」という風である。
すなわち順境のことである。
このときは、有頂天になって自分を過信したり、人のことを馬鹿にしたりしてはならない。
これらの「八風」は、人の心を強く揺り動かす。
しかし、「八風吹けども、動ぜず天辺の月」というのがある。
「この地球上で、どんなに大風が吹きまくっても夜空を照らす月はちっとも動じない」という意味だが、企業人はこの月のように動じない哲学と信念を持ってもらいたいものである。
密教的人生学