密教的人生学

「四苦八苦」の本当の意味とは

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「四苦八苦」の本当の意味とは

釈迦は「人生は苦である」といわれた。

会社の経営に例をとれば、ある会社が経営不振になってきたとする。
売り上げは上がらない。
社員は意気消沈し、資金繰りは苦しい。
まさに四苦八苦の苦しみである。


この四苦八苦とは、人生の苦を分類した言い方で、はじめの四つの苦とは、


一、生まれる苦しみ

人がオギャーと生まれるとき、母親の胎内から、まっ暗で狭い産道を通って出てくる苦しさは、意識がないからいいようなものの、あればたいへんである。
また、母親の陣痛の苦しさも耐えがたいものであり、昔はお産の時、手に青竹をにぎらせ、口に手ぬぐいをくわえさせたという。


二、老いる苦しみ

博多に仙崖(せんがい)和商という人がいたが、老いをこんな風に表現している。
「しわがよる、ホクロはできる、腰かがむ、頭ははげる、毛は白くなる。
手はふるう、足はひょろつく、歯はぬける、耳はきこえず、目はうすくなる。
聞きたがる、死にたくなる、寂しがる、出しゃばりになる、世話焼きたがる」と。
どうですか、ひとつでもあてはまっていると、あなたにもう老いがせまっているのだ。


三、病の苦しみ

言わずもがなである。
現在、いちばん死亡率が高いのが癌。
脳卒中も多い。
どちらにもその初期には自覚症状がない。
自覚症状のない病気は命とりである。
普通の身体の病気は、医者と薬と養生とで治るが、心の病気は仏法と正しい信仰と修養とで治さねばならない。


四、死の苦しみ

病気と死病は違うという。
死病はしにやまいと読む。
老いて死ぬ前にかかる病気であって、もう治らない。
人はこの病気にかかると自分の死期をさとる。
死、そのものよりも死後のことを思えば、不安でたまらない。
だから苦しい。これを断末魔の苦しみという。


以上の生老病死(しょうろうびょうし)が四苦である。


五、愛別離苦(あいべつりく)

どんなに愛し合っている夫婦でも恋人でも、またかわいい子供とも生別死別にかかわらず、必ず別れなければならない。
これは胸がはりさけるような苦しみである。


六、怨憎会苦(おんぞうえく)

恨み骨髄に徹し二度と顔もみたくない奴と、エレベーターの中でバッタリ会う苦しみや、いくら憎んでも足りない憎い奴と一緒に仕事をしなければならない苦しみ。
これは案外、多いのである。


七、求不得苦(ぐふとくく)

人には誰でも欲がある。
「一つかなえばまた二つ、三つ四つ五つ六つかしの世や」とくことばもあるように、欲にはきりがない。
そして、いくら求めても得られないで苦しむことを「求不得苦」という。


八、五蘊盛苦(ごうんじょうく)

五蘊というのは、般若心経(はんにゃしんぎょう)という有名なお経の中のことばである。
蘊は集まるという意味で、人間の身体は、色受想行識(しきじゅそうぎょうしき)の五つが集まってできているという。
人間というものは、色がついたものはすべて、つまりあらゆる物質と、感覚や感情や意志や判断をする心から成り立っているのである。
「血沸き肉おどる」というが、身心に精気がみなぎるといろいろな煩悩(ぼんのう)がおこる。
若いころは元気が良すぎ、それにともなって苦しみもまた多いのは当然であろう。


これで八苦である。


では四苦八苦する根本の原因は何かといえば、すべては欲望から起こる。
人の心の中には百八つの煩悩があるという。
大晦日に、除夜の鐘を百八つ突く。
それは、一年間に人々の心に起こった煩悩の迷いの目を覚まさせるためである。

その煩悩の中で、いちばんの悪者が欲望の心である。
欲望を渇愛(かつあい)ともいう。
喉が乾ききって今にも死にそうな人に水を与えると、いくら飲んでももっと欲しがるからであろう。
どこまで行っても満足することのない欲望の心は、適当なところで滅ぼさなければならない。

冒頭にあげた経営不振になった会社も、無理な事業拡張をはかって設備投資を急いだ。
そのため、資金繰りが苦しくなったので、売り上げを伸ばそうとして、十分な市場調査もせず、ひとりよがりの新製品を作った。
売りだしてみたのもののさっぱり売れない。

こうなった原因は、社長や重役の事業欲、言いかえれば財欲、名誉欲が強すぎたのである。
会社の経営を正常に続けて行くためには、正しい事業の道を歩かなければいけない。

世の中で、金、地位、名誉、学問、権力というものは、人が幸せに生活するための材料である。

しかし、愚かな人は、こうした生きるための材料を作ったり集めたりすることだけで生涯を費やしてしまう。

これらを生かして使うということ、つまり会社の人と物と金を上手に生かして使うことが、すなわち、欲望を滅ぼし四苦八苦から逃れる唯一の道ではないだろうか。



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